16.10.07-16コーカサス紀行

 コーカサス地方はロシアとトルコの勢力の境目にあり、また、黒海とカスピ海の中間にある。冷戦時代もトルコとソ連の境目をコーカサスが通っていた。現在は独立国であるアルメニア、ジョージア、アゼルバイジャンの3ヵ国である。また、コーカサスの北部はロシア連邦そのものに食い込んでおり、ここにはダゲスタンのイスラム教地域と、そして何よりも重要なことに、ソ連崩壊後にロシア支配に反対するチェチェンが含まれる。
 ロシアのチェチェンに関する支配は絶対に譲れないと思う。ロシアはできることなら南進し黒海への出口であるジョージアを再吸収し安定を図りたいはずだ。また、アゼルバイジャンをイランとの緩衝地帯として活用したいと考えていると思う。アルメニアは20世紀初めに起こった大量虐殺をめぐりトルコ人を忌み嫌っており、どちらか言えば親ロシアである。アルメニアとアゼルバイジャンは激しい対立関係にある。ジョージアはスターリンがグルジア(ジョージア)人だったにもかかわらずアルメニアを敵視しロシアを警戒している。 ロシアはチェチェン紛争時にジョージアを経由しチェチェンに武器が渡った事実を警戒している。
  ロシアはソ連崩壊(1991)まではワルシャワ条約機構国が西側諸国との緩衝地帯の役割を果たしていた。しかし崩壊後、ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキア、ブルガリア、ルーマニア、ラトビア、エストニア、リトアニア、スロベニア、クロアチア、アルバニアなどの国がNATOの加盟国となった。ロシア勢力は一気にヨーロッパの西側に押しやられ、いきなり西側諸国と対峙することになりロシアとしては常に緊張を強いられることになる。特にコーカサスとバルト3国はロシアが武力介入する可能性は大である。これらの3国は国内に多民族による独立を要求する地区を抱えている。スターリン時代に強制的に各民族を移動し移住させたために、ソ連崩壊後に元の居住地に戻ろうとしたが戻れない状況が続き民族紛争が起きている。

【アゼルバイジャン】・・・アゼルバイジャンとは古くはアレキサンダー大王の遠征時に、この地方にあったアトロパテン(火の守護者の意)王国に由来する。シーア派のイスラム教徒の国であるが、火を信仰するゾロアスター教(拝火教)も続いている。ソ連時代にはナゴルノ・カラバフ自治州も含まれていたが、現在は自治が廃止され係争中。ナゴルノ・カラバフはアルメニア人が独立を要求しロシアの応援もあり紛争が絶えない。紛争地はアゼルバイジャンの国土の20%を占める。従いアゼルバイジャンは隣国アルメニアとの国境を閉鎖。

 首都バクーはカスピ海から強い風が吹き付ける。ペルシャ語で『風の町』という意味である。20世紀初頭は世界の石油生産の半分をしめていたが、現在地上の石油は枯渇し、海底油田による生産が盛んである。産油国なので市街地はビルが乱立。東京国立競技場で話題になった、あのザハ・ハディド設計による斬新な建物『文化センター』もあった。ガソリン代は0.2マナト/ℓ(≒70円)程度だ。さすがに産油国。人種的にはトルコ系。

殉教者の道の上から見たバクーの市内
殉教者の丘から見た風景

バクー旧市内


ソ連との騒乱やアルメニアとの紛争による『殉教者の小路」に建つ記念碑
殉教者の道

近代的なビル群
首都バクーの近代的なビル

同じくビル

ジュークモスク
ジュークモスク

 『シルバン・シャフ宮殿』は16世紀まで栄えたシルバン・シャフ朝の王宮。霊廟や王宮が旧市内で一番の観光地となっている。
王宮2

王宮内の様子
王宮

王宮のハマム(サウナ)跡
ハマム

  『乙女の塔』はバクーの旧市街のシンボルといえるだろう。高さ30m、厚さ5mの石の要塞で12世紀に造られた上部とそれ以前に造られた部分から構成されている。名前の由来は父親に言い寄られた娘が嘆き悲しみここから身投げしたという伝説に基づいている。

乙女の塔
乙女の塔

旧市街の様子
街の様子

 18~19世紀にかけてシェキ地方を支配したシェキ・ハーンの城塞と宮殿は二階建てのイラン風木造建築である。床は絨毯が敷かれ、窓には独特のステンドグラスがはめられている。

シャキ・ハーンの宮殿
宮殿

宮殿の城壁
宮殿の城壁

 シャキは現在でもシルクの産地でもあり、西欧でも有名。かつては絹を買い付けに来る商人のためにキャラバンサライ(隊商宿)がアゼルバイジャンには5か所あり、その中でもシェキのものは最大である。

キャラバンサライの建物。1階は商品の展示場、2階は宿泊所
キャラバンサライ

キャラバンサライの1階の回廊
回廊

シェキの街並み
シェキの街並み


【アルメニア】・・・国土の平均標高が約1800mの高原であり、国土の90%が標高1000m以上。現存する世界最古の街の一つであるエレバンはヨーロッパ調の美しい街並みだ。ローマ帝国時代に世界で最初のキリスト教国となった。旧訳聖書に出てくる『ノアの箱舟』が漂着したアララト山は現在トルコ領にある。しかしアルメニア人はこの山を愛してやまない。日本人にとっての富士山の様なものだ。スーパーに並んでいる商品もアララト山をデザインした物も多い。500ドラム紙幣の裏側のデザインもアララト山である。アルメニア人にとっては20世紀初頭のトルコによるアルメニア人虐殺と領土(アララト山)を奪われたということでトルコに対しては非常に嫌悪感を示す。また、アルメニアは国内に300万人、海外には600万人のアルメニア人がいる。まるでユダヤ人のようだ。海外で活躍する芸術家も多く、指揮者の故カラヤンやハチャトリヤ、シャンソンのシャルル・アズナブール、画家のゴーキー等枚挙にいとまない。宗教は勿論アルメニア使途教会。人種的にはインド・ヨーロッパ語族だ。文字は独特なアルメニア文字。

 首都エレバンは現存する世界最古の街である。石を使った建築物も多く『石の街』とも呼ばれている。晴れた日にはアララト山を望むことができる。

エレバンのカスケード
カスケード1

カスケードから見たエレバン市内
カスケード2

ホテルから見た『アララト山』ブランドのブランデーメーカー
アララト広告

エレバンの共和国広場(元レーニン広場)  夜になっても人出が絶えない
共和国広場

共和国広場の噴水ショー  娯楽が乏しいのか、この程度で人が集まる
共和国広場の噴水

 世界最古の修道院で世界遺産『ハフパト修道院』は山麓に立つ殺風景な石造りの修道院。中にはアルメニア十字架(ハチュカル)がある。

ハフパト修道院
ハフパト修道院

アルメニア十字架(ハチュカル)
アルメニア十字架

 首都エレバンの郊外にセバン湖がある。その湖のほとりにセバン修道院がある。当日、訪れたのは夕刻で陽が沈むころであった。修道院そのものは石造りで殺風景なものであったが湖を見下ろす高台にあり、一種独特の趣があった。

日没のエバン湖
エバン湖

セバン修道院
修道院

世界遺産ホルビラップ修道院から聖地アララト山が見える。トルコとの距離は10km


アルメニア人の聖地アララト山(5137m) とホルビラップ修道院のツーショット
アララト山

ホルビラップ修道院
ホルビラップ修道院

裏山から眺めたホルビラップ修道院
修道院の裏山

修道院の内部
修道院の中

 アルメニア使途教会の総本山エチミァジン大聖堂は世界遺産である。大司教座が置かれアルメニア人の心の拠り所である。エチミァジンという名前は神が君臨したという意味だそうだ。4世紀に基礎が築かれてから度々増築している。キリストの磔刑の際にわき腹を刺したという槍やノアの箱舟の破片等貴重な品々が博物館にあった。真偽のほどはどうか?
 大聖堂には神学校から宿舎や礼拝堂、博物館など様々な建物がある。礼拝堂は修復中。

エチミァジン大聖堂
聖堂

エチミァジン大聖堂3

神学校
エチミァジン大聖堂2

聖堂の内部
槍

キリストの磔刑の際にわき腹を刺したという槍
槍2

三位一体のを象徴している指の像
三位一体

 ガルニ神殿は紀元前3世紀から後3世紀ころまで太陽神の神殿・ミトラ神殿として使用されていたもので、1年に1度太陽が神殿の中を照らす構造になっている。現在の神殿は16世紀の地震で壊れたものを20世紀に修復したもの。青みを帯びた玄武岩で作られた神殿は美しく優美。かつてはブロンズの像といけにえ台が置かれていた。ギリシャ時代を彷彿とさせる遺跡だ。

ガルニ神殿1

ガルニ神殿2

 ガルニ神殿からゲガルト洞窟に向かう途中、羊の大群に出会う。コーカサスの遊牧国家と再認識する。
ひつじ1

ひつじ2

 ゲガルト洞窟は石工が大きな岩をくり貫いて造ったものだ。石の国と言われるアルメニアを象徴する景観。ゲガルトとはアルメニア語で「槍」を意味し、キリストのわき腹を刺した槍がここに収められていた。現在はエチミァジン大聖堂に所蔵されている。

ゲガルト1

ゲガルト2

ゲガルト3

洞窟内部の装飾
ゲガルト4

洞窟内部の礼拝施設
ゲガルト5


【ジョージア】・・・2年前に国名をロシア語のグルジアから英語のジョージアに変更した。理由は簡単、ロシアが嫌いだからだ。コーカサス地方は古代よりペルシャ、アラビア、モンゴル、トルコ、ロシア、ソ連等大国の支配に翻弄された。ジョージアも例外でなく、国内に南オセチアとアブハジア、アジャリア等の民族自決問題を抱えている。これらの民族問題も西欧化を急ぐジョージアに対し危惧を抱くロシアの陰が見える。言語学的にはコーカサス語族に属し、宗教はジョージア正教である。アルメニア、ローマ帝国に続き世界で3番目にキリスト教を国教とした国である。ジョージアを観光していると温暖な気候を利用したワインの産地であることが良くわかる。ワイン発祥の地として5千年の歴史があり、ここからメソポタミアを経由しエジプトに伝わったと言われている。

 首都トビリシはマルコポーロがその昔『絵のように美しい』とたたえたとされる街並み。旧市街は曲がりくねった細い通りにロシア帝政時代の建築やイラン色の強いジョージア建築が混在している。過去ほとんどの期間、大国の影響下にあった複雑な歴史を物語っている。歴史的にはアルメニア人、アゼルバイジャン人、ロシア人、ユダヤ人等の民族が共存してきたことから、街の中にはジョージア正教、ロシア正教、モスク、シナゴーグ等が存在している。トビリシでは偶然、祭の最中に訪れた。市内には正装し食事を楽しむ人や、ムトウクワリ川に筏を浮かべパーティーする人等なかなかにぎやかだ。

トビリシの自由広場にあるオペラ劇場。ジージア風の建築様式
オペラ劇場

筏の上のパーティはジョージア版の「屋形船」
筏

祭で正装した人々
正装した人々

メテヒテ教会に参拝する人々
メヒテ教会2

丘の上のメテヒテ教会
メヒテ教会1

街中で演奏し祭りを盛り上げる
バンド

レストランのボーイ
レストランのボーイ

ソ連時代のコスチュームをまとった人
ソ連時代

ユダヤ人のシナゴーグ
シナゴーグ

トルコのハマム跡は子供の遊び場になっている
ハマム

トビリシには温泉が湧いている
温泉

 トビリシ郊外のムツヘタは世界遺産でもあり、ジョージア最古の教会と言われるスヴェティ・ツホヴェリ大聖堂がある。この教会の下にキリスト磔刑の際の上衣の一部が埋められていると伝えられている。仏教の仏舎利の様なものか。

スヴェティ・ツホヴェリ大聖堂
スヴェティ・ツホヴェリ大聖堂

大聖堂内部
聖堂内部

 ジョージア軍用道路を通り最高地点の十字架峠(標高2,395m)を越えてサメバ教会に行く。教会までは急峻な道なので4WDの車を利用。運転手はチェチェンのゲリラ兵士然とした男。本当はすごく親切だった。

山の上にあるサメバ教会
サメバ教会

サメバ教会の近くまで4WDで行く。運転手はチェチェンのゲリラの様な風貌だが、以外と優しかった。
運転手

十字架峠は2395m
峠

天気が良ければカズベキ山が見えるはずだが・・・・・
カズベキ山

雲海


 ジョージア軍用道路は首都トビリシからロシアまで続いている。大コーカサスを走り抜ける絶景の街道だ。19世紀にロシアがイランの脅威に対抗するために整備されたものだ。途中にアナヌリ教会がある。要塞建築で湖を背にした風景は特に絵になる光景。

軍用道路の途中にあるアナヌリ教会
アナヌリ教会

アナヌリ教会近くの湖
湖


【コーカサス雑感】・・・人類学で東洋人をモンゴロイド、黒人をネグロイド、白人をコーカソイドと言う。コーカサスは白人発祥の地だが、コーカサス3国に関しては、どちらか言うと髪の毛は黒く瞳も黒い。何千年かによる混血のためか若い女性はマリア像の様な感じの人が多い。年配の女性は大半が肥満だ。
 コーカサス地方はパキスタンのフンザ、南米エクワドㇽのビルカバンバと並んで三大長寿地域として有名。記録の正確さや学術調査の資料からは信頼性が高いと評価されているそうだ。秘訣はやはり食事にあるからだろう。食事は野菜と乳製品のヨーグルトやチーズが必ず出る。コーカサスの伝統的な発酵乳は『ケフィア』であり、ヨーグルトと菌が異なるため同一でないとされているが、日本では『カスピ海ヨーグルト』として通っている。また、抗酸化作用の高いポリフェノールを多く含んだワインがよく飲まれるのも秘訣の一つかもしれない。その他、ジョージア風ギョウザ(ヒンカリ)、チーズパイ(ハチャプリ)、アルメニアのトマト、アゼルバイジャンのケバブなどは魅力的な食べ物であった。
 日本とはあまり濃密な関係ではないが、大相撲の黒海、露鵬、白露山、栃ノ心等が活躍している。もともと柔道やレスリング等の格闘技が盛んな地域だ。そして相撲が柔道等と共に国際化が進んでいるのかもしれない。
 コーカサスの国にとってロシアは厄介な国である。1991年にソ連が崩壊し、やっと独立を果たしたアゼルバイジャンやジョージアの国内にある少数民族に陰で民族自決の支援をしている。ロシアにとってはあまり西欧化してほしくないためだろう。しかし、あまり他国の民族自決を支援すれば、自国の北オセチア、チェチェン、ダゲスタン等の独立運動に火をつけることにもなりかねない矛盾を含んでいると思う。そもそもロシアは2001年の9.11までは国際世論を気にしながらチェチェンに対して弾圧していたが、以降はテロに対する戦いとのレトリックを使い堂々と一般市民も対象に攻撃をしている。やはり監視が必要と思う。


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2011年秋に完全リタイアー。現在は毎日が日曜日の素浪人。そして地球の何処かを徘徊中。

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